ロクサーヌの王都は港町として栄え、常に賑わいで彩られている。
 大きな道路を馬車が行き交い、到着したばかりの人や物を運んでいく様子が印象的だ。船が到着すれば港はたちまち人で溢れかえり、流行のドレスに身を包んだ人々は華のように映る。その中にはもちろん、アレクシーネ王立魔法学園の象徴、深紅の制服に身を包んだ学生も多い。

 リシャールと別れた翌日、カルミアは必要最低限の荷物をトランクに詰めて学園へと向かった。
 時刻は七時を過ぎたところで、今頃リシャールは制服を用意してくれているはずだ。念願の学園生活を目前に控えたカルミアの足取りは軽い。

 そう、カルミアは浮かれていた。
 自分が今、まさにあの制服の元へ、学園生活へ向けて一歩、また一歩踏み出しているのだと思うと夢を見ているような心地だった。
 女生徒の制服は深紅のジャケットに同じ色のスカートで構成され、胸元に赤いリボンをするのが正式な着こなしだ。しかしジャケットとスカート以外は各自の趣味に任せて着こなすことが認められ、わりと自由な校風となっている。

(学園はアレクシーネ様への敬意を表すためにつくられた。深紅はアレクシーネ様を象徴する色。だから学園の生徒は深紅を身に纏う。尊敬の意味も込めてね。深紅の制服は王国中の女子たちの憧れ。なんて素敵なの!)

 学園生活が夢でしたとは恥ずかしくて言えないが、リシャールには改めて感謝を伝えるべきかもしれない。

(それにしても学校生活なんて久しぶりね。上手くやっていけるかしら)

 不安もあるが、リシャールが見込んでくれた自分を信じようと思う。
 ところが順調だったカルミアの足取りは学園を目前にしてぴたりと止まる。

(あれ? 私、今……)

 まるで学校に通うことが初めてではないと言うようだった。

(私はずっと、生まれてから一度も学校に通ったことはない。それなのにどうして、初めてじゃないと思ったの?)

 疑問はそれだけでは終わらない。学園に近づけば近づくほど、奇妙な感覚に襲われていく。


 お願い。この世界を、救って――


(誰?)