早速カルミアは船員たちに事情を説明することにした。もちろん学園の危機については伏せ、後学のためリシャールの仕事の手伝いをするという名目で、しばらく船を降りると告げた。

「そ、そんな! 船長がこの船からいなくなるなんて……」

 船員たちにとってもまた、カルミアは家族も同然の存在だ。カルミアが幼い頃から同じ景色を見て、同じ物を食べて育った。ある者にとっては妹、ある者にとっては娘。そしてある者にとっては孫のような存在だ。
 そんなカルミアが長期間不在になるのは初めてのことで、船員たちの嘆きようは凄まじいものだった。

「っく……! お嬢が、お嬢がいなくなったら俺たちは!」

 リデロも俯き肩を震わせている。

「リデロ、それにみんなも……」

 カルミアの瞳がじんわりと潤む。

(まさかみんながそこまで別れを惜しんでくれるなんて……)

 船長冥利に尽きるだろう。なんて船長想いの仲間たちだ。正直、ここまで惜しんでくれるとは思っていなかったので胸が熱くなる。
 しかし引き受けてしまった仕事を放棄することは出来ないと、涙を呑んで顔を上げた。

「みんな、ありがとう。別れを惜しんでくれるのは嬉しいわ。でも私」

「これから俺らの食事はどうなるんだよ!?」

「別れを惜しめ!」

 感動の場面から一転。カルミアは別の意味で泣きそうになった。

「お嬢がいなくなったら誰が俺らの飯を作るっていうんですか!」

「自分で作りなさいよ」

 感動を返してほしい。カルミアの顔からはすっかり表情が抜け落ちていた。
 しかしリデロに便乗するように、見守っていた船員たちも次々と同じような主張をしていく。
 ある者は悔しそうに甲板に拳を叩きつけた。

「俺は、どんなに長い航海も船長の料理だけが楽しみだった!」

「ああ、その通りだ」

「陸に恋人のいない俺たちにとって、海の上で料理を振る舞ってくれる船長こそが癒しだってのに、ちくしょう!」

 波打つように賛同が広がり、カルミアは悔しがる船員たちの顔を一人一人しっかりと確認していく。あとで個人的に話し合う必要があるだろう。

 そしてとどめの一言を告げたのがリデロだ。

「なあ兄弟。それでも俺たちからお嬢を奪うってのか!?」

「貴方達、格好いいことを言っているようだけど、食事の心配しかしていないわよね」