普通はこれだけで威嚇になるが、カルミアたちの船に効果はない。それどころかまるで向かって来るような動きを見せたことから武力行使に訴えたようだ。
 どう対処してやろうかと考えていたカルミアだが、甲板にリシャールの姿を見つけて動揺する。

「リシャールさん!? ここは危ないですから、どうぞ中でくつろいでいてください!」

「ご心配なく。これでもアレクシーネの校長ですから、自分の身は自分で守れます」

 確かにアレクシーネの校長が、たかが海賊の襲撃でおびえていては話にならない。魔法界にはこれ以上の脅威が潜んでいるのだ。

「カルミアさんに何かあってはいけません邪魔は致しませんのでそばにいさせて下さい」

 なんとカルミアの身を案じて追いかけてくれたらしい。リシャールの穏やかさは変わらず、心配はいらないと言われているようだった。

(本当に新鮮な対応……。こんな風に私を一人の女性として扱ってくれる人がこの船にいたかしら。いいえ、いないわ)

 幼い頃は大切にされていたが、それも成長と共に失った気がする。
 船の上で育ったカルミアにとって海は庭のようなもので、この海で敵になるような相手がいないことを船員たちはみな知っている。だからこそカルミアが前に出れば道を譲り、安心して任せているのだ。

「みんな、見せ場は私が貰うわよ!」

 カルミアは風を操り海賊船を翻弄する。最初の衝撃は相手も同じ手法を使ったようだが、到底カルミアの起こす風には及ばない。こちらは転覆寸前まで追い込んでいる。不規則に揺らすことで向こうの船員たちをたっぷりと船酔いさせてから、水の膜で船全体を覆い持ち上げた。
 まるで巨大なシャボン玉が宙に浮いているようだ。水の膜は内側からの攻撃を通さず、大砲の玉さえクッションのように無効化してしまう。捕らえられた海賊たちは目に見えてわめき散らすが、水に遮られて一切の音は遮断されていた。

「このまま港まで連行して引き渡しましょう」

「でた。帆船を波ごと持ち上げる女……」

 重い物を持ち上げるには多くの魔力が必要となるが、カルミアは顔色一つ変えずにそれを行う。だから女性として扱われることがないのだとリデロは切実に訴えようとしたが、カレーを取り上げられては敵わないので大人しくしていた。