カルミアが学食に残ることを決めてから、レインはもう一度謝りに来てくれた。
犯した罪の大きさに一時は退学まで考えていたようだが、校長であるリシャールは不問とした。被害を受けた本人が決めたことならと、カルミアも彼の決定に納得している。
それでもレインはお咎めなしという状況に甘えることなく、お詫びがしたいと言ってきた。自分にできることなら何でも言ってほしいと詰め寄られたカルミアの答えがこれだ。
「憧れのアレクシーネの制服が目の前に!」
嬉しさのあまり制服相手に踊り出しそうだ。
今度はレインも呆れることなく同意してくれた。
「その気持ちわかるかも。私も制服を着ることができた日は興奮して眠れなかったから」
ロクサーヌ中の女子の憧れであり、カルミアとレインに至っては、主人公が着ている姿に前世から焦がれている。
生徒ではないけれど、いつか着てみたいと思っていた。ここに至るまでの道のりは長かったけれど、レインのおかげでようやく夢が叶いそうだ。
「お茶を用意するから、レインは座ってのんびりしていて」
カルミアは慣れた手つきで紅茶を入れる。透明な瓶の中身はラベルのない茶葉だ。
「うちで新しく売り出そうと思っているブレンドだから、後で感想を聞かせてね。評判がよければ王都のカフェにも並ぶから」
蓋を開けると甘酸っぱいフルーツの香りが広がる。
「いい香り」
「今度カフェでトロピカルフルーツフェアもやるから、楽しみにしていて」
最初の商談では門前払いされてしまったけれど、きちんと会って話せばカルミアの熱意を認めてくれた。そのきっかけをくれたリシャールには感謝している。
「それは楽しみだけど……」
視線を彷徨わせているのでレインの言葉にはまだ続きがありそうだ。急かさずに見守っていると、睨みつけるように身を乗り出してきた。
「あの、もしよかったら、一緒に行かない?」
たった一言によほど勇気が必要だったと見える。
カルミアは思いがけない誘いに一瞬返事を忘れたけれど、勢いよく頷いた。
「もちろん!」
学生ではないけれど、友達とカフェに行く夢まで叶いそうだ。
誤解がとけてからのレインは少しずつ自分の意見を伝えてくれるようになった。敬語が取れてきているのも、友達としての距離が近づいているようで嬉しくなる。
カルミアは素早くワンピースを脱ぎ、設定資料で何度も目にしてきた制服に袖を通す。実際に着てみると、綺麗にリボンを結ぶのは意外と大変だ。
「どうかしら!?」
あえて髪は下ろしたまま、長い髪を後ろに払う。深紅の制服に気の強そうな瞳はゲームで何度も目にしてきた『悪役令嬢カルミア』そのものだ。
スカートの裾を翻して回ると柔らかな生地が揺れ、レインからも「悪役令嬢だ……」という感動の声が零れた。
米がパスタにならないように、主人公のように可憐な姿とはいかないけれど、これはこれで満足だ。自分が動くと鏡の中のカルミアも動くので見ていて楽しい。
自分ばかりが楽しんでしまったカルミアは紅茶を飲むレインに提案する。
「レインも学食の制服を着てみる?」
「私のことは気にしないで! 確かに学食の制服も可愛いけど、着替えたらすぐにお暇できないから」
似合うと思って提案したけれど全力で断られてしまった。残念だ。
「そう? でも、ゆっくりしていっていいのよ」
レインの分も朝食を作るつもりでいたし、制服を堪能したあとは一緒に出かけても楽しいと思っていた。
しかしよほど困らせてしまったのかレインは焦っている。距離の詰め方を間違えてしまったとカルミアは反省した。
どうしたものかと悩んでいると再び呼び鈴が鳴る。
「こんな朝早くに誰かしら」
カルミアは深く考えずに来客を出迎える。
自分が今、どんな格好をしているのかも忘れて――
犯した罪の大きさに一時は退学まで考えていたようだが、校長であるリシャールは不問とした。被害を受けた本人が決めたことならと、カルミアも彼の決定に納得している。
それでもレインはお咎めなしという状況に甘えることなく、お詫びがしたいと言ってきた。自分にできることなら何でも言ってほしいと詰め寄られたカルミアの答えがこれだ。
「憧れのアレクシーネの制服が目の前に!」
嬉しさのあまり制服相手に踊り出しそうだ。
今度はレインも呆れることなく同意してくれた。
「その気持ちわかるかも。私も制服を着ることができた日は興奮して眠れなかったから」
ロクサーヌ中の女子の憧れであり、カルミアとレインに至っては、主人公が着ている姿に前世から焦がれている。
生徒ではないけれど、いつか着てみたいと思っていた。ここに至るまでの道のりは長かったけれど、レインのおかげでようやく夢が叶いそうだ。
「お茶を用意するから、レインは座ってのんびりしていて」
カルミアは慣れた手つきで紅茶を入れる。透明な瓶の中身はラベルのない茶葉だ。
「うちで新しく売り出そうと思っているブレンドだから、後で感想を聞かせてね。評判がよければ王都のカフェにも並ぶから」
蓋を開けると甘酸っぱいフルーツの香りが広がる。
「いい香り」
「今度カフェでトロピカルフルーツフェアもやるから、楽しみにしていて」
最初の商談では門前払いされてしまったけれど、きちんと会って話せばカルミアの熱意を認めてくれた。そのきっかけをくれたリシャールには感謝している。
「それは楽しみだけど……」
視線を彷徨わせているのでレインの言葉にはまだ続きがありそうだ。急かさずに見守っていると、睨みつけるように身を乗り出してきた。
「あの、もしよかったら、一緒に行かない?」
たった一言によほど勇気が必要だったと見える。
カルミアは思いがけない誘いに一瞬返事を忘れたけれど、勢いよく頷いた。
「もちろん!」
学生ではないけれど、友達とカフェに行く夢まで叶いそうだ。
誤解がとけてからのレインは少しずつ自分の意見を伝えてくれるようになった。敬語が取れてきているのも、友達としての距離が近づいているようで嬉しくなる。
カルミアは素早くワンピースを脱ぎ、設定資料で何度も目にしてきた制服に袖を通す。実際に着てみると、綺麗にリボンを結ぶのは意外と大変だ。
「どうかしら!?」
あえて髪は下ろしたまま、長い髪を後ろに払う。深紅の制服に気の強そうな瞳はゲームで何度も目にしてきた『悪役令嬢カルミア』そのものだ。
スカートの裾を翻して回ると柔らかな生地が揺れ、レインからも「悪役令嬢だ……」という感動の声が零れた。
米がパスタにならないように、主人公のように可憐な姿とはいかないけれど、これはこれで満足だ。自分が動くと鏡の中のカルミアも動くので見ていて楽しい。
自分ばかりが楽しんでしまったカルミアは紅茶を飲むレインに提案する。
「レインも学食の制服を着てみる?」
「私のことは気にしないで! 確かに学食の制服も可愛いけど、着替えたらすぐにお暇できないから」
似合うと思って提案したけれど全力で断られてしまった。残念だ。
「そう? でも、ゆっくりしていっていいのよ」
レインの分も朝食を作るつもりでいたし、制服を堪能したあとは一緒に出かけても楽しいと思っていた。
しかしよほど困らせてしまったのかレインは焦っている。距離の詰め方を間違えてしまったとカルミアは反省した。
どうしたものかと悩んでいると再び呼び鈴が鳴る。
「こんな朝早くに誰かしら」
カルミアは深く考えずに来客を出迎える。
自分が今、どんな格好をしているのかも忘れて――


