サラダの準備に取り掛かろうとすれば、隣の調理台から頼もしい声がかけられた。

「小娘、サラダの用意ならあたしにも出来る。あんたはこの出来立てハンバーグを乗せた日替わりプレートでも運んでな。せいぜいあたしの分まで働くんだね」

 盛り付けをしていたベルネが自ら名乗りを出てくれる。しかしカルミアを睨み付ける眼差しは鋭いものだった。刻まれた皺と白髪が年齢を感じさせる見た目でありながら、老いよりも貫録を感じさせるのはこの態度が原因だろう。
 カルミアを小娘と罵り、自らに主導権があるかのように命じる姿は傲慢にも感じられる。しかし命じられた本人は気にせず感謝を告げた。

「ありがとうございます。ベルネさん」

 小娘呼びにも慣れたところだ。棘を含んだ言葉だろうと、そこにベルネという人物の気遣いや優しさが窺えることをカルミアは知っている。
 つまりベルネが言いたいのはこういう事だ。
 サラダの準備は自分に任せて、カルミアは料理を運ぶことに専念するべきと、そう伝えたいらしい。
 実際ベルネからすれば、カルミアなど取るに足らない小娘に見えるのだろう。いずれにしろカルミアは出来あがった料理を届けなければならないため、有り難い申し出だった。

「ふん、冷めないうちにさっさと行きな」

 ベルネはそっけなく受け流して会話を終える。それきりカルミアには見向きもせずにサラダの準備を始めていた。
 それをベルネらしいと思えるほどには仲良く働けているのだろう。一方的かもしれないが、カルミアはそう思っている。
 そっけない会話はお互いを信頼しているからこそ。カルミアは期待に応えるべく完成した皿を運ぶことにした。

 フロアに出ると、たちまち生徒たちの楽し気な姿が目に入る。声は厨房にも届いていたが、こうしてフロアに出てくるたび、学生たちの笑顔が眩しいと感じさせられていた。
 それも何度目のことだろう。フロアと厨房を何度往復したか、考える事を放棄するくらいには繁盛している。忙しさに目が回りそうだ。
 けれど商売に携わる身としては、暇を持て余すより多忙な方が望ましいと考えるものだ。そしてまさに数日前まで、この学食はそのような状況下にあった。

(美味しくないのに無理して食べたり、呪われた学食なんて言われるより忙しい方がいいわよ!)