「安心して下さい、リシャールさん。あの事件を収束させたのはリシャールさんの功績です。今回のことでリシャールさんの信頼は高まり体制は万全のものとなりました。だからもう、私はこの学園に必要ないんです」

 顔を見ていたら別れが惜しくなってしまう。判断が鈍ると思った。

(そんなことがあってはいけない。私はカルミア・ラクレットだから)

 カルミアは自分の想いにも気付いている。だから直面する前に逃げ出してしまいたかったのだ。

(大丈夫。船に乗ればまたいつもの生活が待っている。きっと忘れられる。陸の綺麗な思い出で終らせることが出来る)

 しかしリシャールは終止符を打とうとしたカルミアの感情を揺さぶった。

「ああ、そうでしたね。すべては私がまいた種……」

 リシャールは頭が痛むのか額を押さえている。やはりまだ体調が悪いのだろうか。

「あの、まだ無理はしないほうが。安静にしていてください」

「わかりました。そのうち安静にしますから」

(そのうち……)

 何もわかっていないと思う。それでもリシャールは言い募ろうとした。

「ですがその前に私の話を聞いて下さい」

 リシャールが身を乗り出せば、間近に美しい顔が迫る。

「き、聞きます! 聞きますから、あの、ちょっと離れてからに!」

 これまでリシャールはカルミアにとって穏やかな雰囲気を放つ人だった。そのはずが、強引な一面を見せられた気がする。リシャールのキャラがまた違って見えた。
 ゲームでもなく、これまで目にしていた優し気な姿とも違う。それほどまでに真剣な眼差しで、一体何を騙ろうというのか。

「学園に脅威が迫っているという話ですが、あれは嘘です」

「え……う、嘘?」

 何を言われているのかわからない。とっさに繰り返せば、しばらくしてその言葉が身体へと染み渡る。美しい顔という衝撃はいつしかどこかへ消えていた。

「あれはカルミアさんをひき止めるため、とっさについた嘘なのです」

「どういうことですか!?」

「船を下りて貴女との繋がりが途切れるのが嫌だったのです。もっと私のことを知ってほしいと、欲が出ました」

「あの、ちょっと意味が……」

 リシャールの眼差しは船上で交わした時のように真剣だ。今度はいったい何を伝えるつもりなのだろう。