【電子書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました

「そうそう、うちのお嬢は凄いんだぜ!」

 いきなり話を振られたカルミアは驚いて反応し損ねてしまった。

「リデロ、私のことはいいから」

「何言ってるんですか! リシャールはあのアレクシーネの校長なんですよ。うちのお嬢だってアレクシーネの生徒に負けてないってこと、しっかりアピールしとかないと」

 リデロの発言から、話題の中心はすっかりカルミアへと移っていた。

「先ほども感じましたが、お二人は随分と仲がよろしいのですね」

「船の連中はみんな家族みたいなもんだからな。お嬢と俺なんて、お嬢がこんくらいの時からの付き合いなんだぜ」

 リデロの手がこれくらいと腰より下に下げられる。

「ちょっと、そんなに小さくはなかったわよ。だいたい……」

(私とは打ち解けるまでに随分時間がかかったくせに、リシャールさんとは打ち解けるのが随分と早いわねえ!)

 先ほどから感じていたもやもやはこれが原因なのだろう。

「お嬢?」

 子どもじみた対抗心だ。すぐに船の仲間として受け入れられたリシャールに嫉妬していることはわかっている。正直に思ったことを口にすれば、からかわれることも目に見に見えている。そのためカルミアは不満げに口を噤んだまま呟くだけに留めておいた。

「なんでもないわ。まったく……二人とも、いつのまに仲良くなったの?」

「いやあ、これが話してみると良い奴で。なあ!」

「はい。リデロさんが船を案内してくださるおかげで退屈しません」

「本当ですか? うちのリデロが迷惑をかけていないか心配です」

「俺が迷惑かけてる前提!?」

「当たり前でしょう。それと、次はリデロが見張り当番のはずよ。そろそろ交代の時間じゃない?」

「おっと、そうだった。悪いな兄弟」

「とんでもないです。付き合って下さってありがとうございました」

 駆け出すリデロにカルミアは声を張り上げる。

「しっかりね! 昼は私が用意することになったから、楽しみにしていなさい」

「おおっ!」
 
 きらりとリデロの瞳が輝く瞬間をカルミアは見逃さなかった。

「運がいいな、兄弟。お嬢の飯はな、美味いんだぜ!」

「なっ!?」

 勝手に持ち上げないでほしいとカルミアは焦る。褒めてくれたことは純粋に嬉しいが、これでは期待させてしまうだろう。ここまで言われておきながら、後で失望なんてまねはさせたくない。