【電子書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました

「私、カルミアが現れた時、逃げられないと思ったんです」

「逃げられない?」

「目の前にカルミアが現れて、逃げられるわけがない、そう言われたみたいで怖かった。私、それまでの学園生活でも毎日のように怯えていたんです。攻略対象とはまともに顔を合わせることも出来ませんでした」

 おそらく初日に学食で逃げ出されたのはこれが理由だろう。カルミアの初登場にオズを添えては刺激が強すぎたらしい。

「今度オズに声をかけてあげたら? 寂しがっていたわよ」

「さ、寂しがって? でも、あの、迷惑じゃないでしょうか……」

「きっと喜ぶわ。オズはそういう人でしょ? 彼は変わらないみたいだから」

 安心安全のメインヒーローである。レインにならこれで彼の人となりは伝わるだろう。カルミアが接してきたオズはゲーム通りの人物だった。
 レインは強く拳を握る。

「わかりました。カルミアがそう言うのなら、頑張ってみます!」

 レインは意気込むが、この反応はカルミアにとって予想外のものだった。

「私が言ったことだけど、無理はしないでね」

「いえ、私が頑張ってみたいんです。これからは自分の世界を広げたいので……。そうしないと校長先生にも、カルミアにも恩が返せません」

「恩?」

「はい。いつかカルミアや校長先生の役に立てるような、立派な魔女になりたいんです。あの時助けておいて良かったと思えるくらいの魔女に。そのためのは今のままだといけないって」

 照れながらも告げるレインにカルミアは勇気付けられる。レインの強い意思を感じられたことで不安が一つ消えていた。

「良かった。出発前にレインさんの決意が聞けて」

「カルミア、どこかへ行くんですか?」

「レインさんだから話すけど。私ね、リシャールさんに学園の危機を救ってほしいと頼まれてここへ来たの。けど、私はもう必要なさそうね。これからは家業の手伝いに戻るわ」

 それを告げた瞬間、またレインの表情が沈んでしまう。わなわなと唇を震わせているのは躊躇いからだろう。やがてゆっくりと話し始めるが、やはり声には元気がなかった。