【電子書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました

「見ろよ兄弟! この船早いだろ? お上品な客船で向かうより先に着いちまうぜ!」

「貴方達、いつ兄弟になったのよ」

 はしゃぐリデロをカルミアは冷めた目で見つめていた。
 リデロはリシャールの肩に腕を回し、得意気に水平線を指している。こうして一歩引いたところから眺めるカルミアには、たったの数分で兄弟呼びになる感覚が理解出来ずにいた。

(あんなに警戒していたくせに、打ち解けるのが早くない?)

 リデロのコミュニケーション能力の高さは長所ではあるが、カルミアはどこか釈然としない思いを抱えている。
 なんでもリデロの言い分では同じ船に乗った人間はみな兄弟らしい。カルミアにとってもリデロは兄のような存在ではあるが、それを聞いてもやはり釈然としなかった。
 一方で、肩に手を回されたリシャールは馴れ馴れしい年下の態度に嫌がることなく応じていた。当初はカルミアが案内するつもりでいたが、リデロの登場で仕事を奪われているところだ。

「本当ですね。出航して間もないですが、随分と陸が遠くなりました」

 リシャールは素直に驚き感心している。

(きっとリシャールさんは良い人なのね)

 リデロが懐いているのだから、間違いはないだろう。出航前は警戒のあまり疑い、悪いことをしてしまった。

「うちの船はな、時間に正確なんだぜ。なんせ風向きや天候に左右されることなく海を渡れるんだ!」

「それは凄い。さぞ力のある魔法使いが乗船されているのですね」

 リデロがやけににやにやとした視線を寄越してくる。

「何よ」

「良かったですね。褒められてますよ」

 リデロの視線を追ったリシャールがカルミアを見つめて息をのむ。

「まさか、カルミアさんが?」