カルミアはとっさにドローナの手を掴んでいた。

「ドローナ!?」

「なあに?」

 言いたいことも、カルミアの戸惑いの理由もわかっているくせに。きょとんと首を傾げるのは止めてほしい。
 ドローナはカルミアだけに聞こえるように囁いた。

「私、嘘は言っていないわ。遅かれ早かれ、最近の人間たちの態度には苛立っていたのよ。そのうち王家にも精霊が殴り込みに行くんじゃない?」

「殴り込み!?」

「私たちの存在を蔑ろにするなってね。カルミアに出会わなかったら今頃城に乗り込んでいたと思うわ」

(確かにゲームのドローナは憤りを見せていたし、ベルネさんも人との距離を感じさせるような発言をしていたけど……)

「けどカルミアと出会えた。人間との間にあるのは距離ばかりじゃないみたい。だってカルミアは私のこと、とっても大切にしてくれているでしょう!?」

「え、ええ、もちろんよ」

 ドローナはぎゅっとカルミアの手を握り返した。

「さてと、一緒にベルネの様子でも見に行きましょうか。多少はベルネも心配だしね」

 リシャールをオランヌに任せると、ドローナはカルミアの身体を引き上げる。手を握られたまま、カルミアは礼拝堂から連れ出されていた。
 その背後で、レインが声を張り上げる。

「カルミア! 私、もう逃げません。これからは自分の意志で世界を見つめます。物語に流されるのはやめるから、だから、本当にごめんなさい!」

 深く頭を下げたままのレインに手を振ったところで気付かれないだろう。だからカルミアも負けじと声を張り上げた。

「レインさんなら出来ますよ!」

 事件を経て成長したレインは、もうゲームの運命に囚われることはないだろう。いずれは立派な魔女となり国を支えていくはずだ。
 レインの成長を喜びながら学食へ向かう途中、ロシュと合流を果たす。

「ロシュ! 良かった、無事だったのね」

「はい。カルミアさんの用意してくれた香水のおかげで順調に撃退出来することが出来ました! 今はお城から役人の方たちも駆けつけてくれて、指揮をとってくれています」

「そうだったの。私たちはこれから学食へ向かうところよ」

「僕もです。ベルネさんや学食のことが気になって」

「ベルネさんも無事みたいよ。ね、ドローナ」

「そうね……」

 あれだけ自信満々に走り出していたはずが、明後日の方向を見て口元を引きつらせている。