「カルミアさん、どうか彼女を責めないでやって下さい」

「リシャールさんはそれでいいんですか?」

「今回のことが公になれば彼女は処罰を免れません。私の弱さが招いたことで優秀な生徒を失っては国の損失。彼女にはこれからも学園で学び、ロクサーヌの未来を担っていただきたいのです」

 確かに魔法学園の校長も認める才能だ。研き続ければ将来は素晴らしい魔女になるだろう。
 それがリシャールの決断ならばとカルミアは頷いた。しかしリシャールはカルミアに向けて申し訳なさそうに告げる。

「ですが、学園を預かる身としては不甲斐ないばかりですね。カルミアさんが止めて下さらなければどうなっていたことか。我が学園を救って下さいましたこと、心よりお礼申し上げます」

「そんな、私は!」

「あら、リシャールにしては殊勝な心掛けね」

 のんきな口調で語るのはドローナだ。驚きに背後を振り返ると、やはり彼女の姿がそこにある。ドローナは手を振りながらカルミアの元へと走り寄った。

「さすがね。カルミアならやってくれると思ったわ」

「学食は、みんなはどうなったの!?」

「少なくとも私とベルネは無事よ。扉が閉じる気配がしたから、あとはベルネに任せて来ちゃった」

「来ちゃったって……」

「細かなことは気にしない! 私は私の役割を確認したくてね。それと、会いに来たの」

 ドローナが見つめる扉の前には見知らぬ女性が立っていた。
 美しい女性だ。彫刻や絵姿でしか知らないはずが、不思議と彼女こそがアレクシーネであると感じている。

「また会えて嬉しいわ。アレクシーネ」

「久しぶりね。ドローナ」

 二人は親しい友のように語り合う。それは心に働きかけるものではなく、対等に話す相手として存在していた。

「ドローナ、カルミアたちのこと、お願いね」

「でもアレクシーネ!」

 駆け寄ろうとしたドローナは途中で躊躇いを見せる。ドローナにはもうわかっているのだ。どんなにそばへ行こうと、同じ未来には生きられないことを。