【電子書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました

 しかしレインは肩を振るわせ残酷なまでに顔を歪める。心当たりがあると言うようなものだ。

「……そうよ。私、私が! でも、こんなことになるなんて、私が望んだのはカルミアを追い出すことだけ。リシャールだってこんなはずじゃ……」

「リシャールさんて、まさか私の名をかたったのも貴女!?」

 レインはまるで悪役が浮かべるような笑みで答える。しかしカルミアの目には泣いているように映っていた。

「反対の感情を増幅させる薬……」

「反対?」

「反対の言葉を吐き、反対の行動を取らせる。なのにどうしてこんなことになっているの? だってリシャールは悪役なのよ。だから飲ませても問題ないはずなのに、どうして!?」

 レインが空を仰ぐ。その先ではまた黒い竜が生まれていた。

「どうして邪悪が溢れ出すの!? どうしてカルミアが私を助けようとするの!? こんなのおかしい! まるでカルミアが正しいみたい……私はただ、カルミアを学園から追い出したかっただけなの!」

 レインは諦めたように項垂れた。それは彼女の計画の失敗を意味しているのだろう。

「前に言いましたよね。本当はこんなところ来たくなかったって」

 カルミアは頷く。レインと初めて出会った時、取り乱した彼女が話していたことを憶えていた。

「貴女には理解出来ないかもしれませんが、ここはゲームの、ある物語の舞台なんです。だから私はこれから先に起こる事を知っている」

 カルミアは驚きながらもレインの言葉を受け止める。自分という例があるのなら、他にも転生者がいておかしくはない。それがこんなにも身近にいたというだけだ。

「私は物語の登場人物ではありません。だから物語にも、登場人物にも関わりたくないと思いました。巻き込まれて大変な目に合うのは嫌だから……。でも心のどこかでは否定している自分もいました。もしかしたら似ているだけの世界かもしれない、考え過ぎだって。同じようでいて少しだけ違っているんです。リシャールは別人で、悪役令嬢カルミアがいなかった」

 静かに語り続けていたレインだが、ここで怒りに染まった瞳をカルミアに向ける。

「なのに貴女が現れた! あと一月だったのに、カルミアが現れて、私はやっぱりこの世界の運命から逃げられないと思った。逃げられないのなら立ち向かうしかないじゃない。カルミアが学園を支配する前に!」