【電子書籍化&コミカライズ】悪役令嬢はラスボスの密偵として学食で働くことになりました

 精霊とはいえ傷を負わないわけじゃない。傷つき倒れるからこそ、彼らは痛みを抱えても立ち上がる人に寄り添うのだ。同じ痛みを知る者として。

「そうね。このまま数が増え続けたら、全てを引きつけてはおけないわ。だから急いで。大丈夫よ。ベルネもやる気みたいだから」

 竜はドローナの言うように学食を標的としているのか、次々に攻撃を仕掛けてくる。牙をむき、爪を振りかざし、踏み潰そうと躍起になっていた。
 そんな竜たちを森ごとなぎ倒す勢いで防ぐベルネには鬼気迫るものがある。彼らに恐怖という感情が備わっていたのなら怯えていたはずだ。

「あんたたち、よくもやってくれたね!」

 自身の領域を踏み荒らされたベルネは怒りに任せて力を振るう。それはもう、触れればこちらも巻き込まれて怪我をするほどだ。

「私たち、これでもアレクシーネと同じ時代を生きた聖霊なのよ」

 だから任せろと、ドローナは自分の手柄であるかのように得意気だ。それもすべてはカルミアを安心させるためだろう。
 確かにドローナの判断は正しい。竜は封印から離れるほど力が弱まるため、まだ学園内でしか活動は出来ないだろう。しかし力の供給源を断たなければいずれは街にも向かい出す。
 ここを任せろと言う二人のために、そして人々のためを思うのならカルミアが事態を解決することが最善だ。
 カルミアは躊躇いながらも決断を下した。

「ここはお願い。でも、気を付けてね。絶対に無理はしないで」

「任されたわ。大丈夫、いつもの料理と何も変わらないわよ。カルミアは私たちを信じて任せたらいいの」

 あまりにもいつもと変わらないドローナのせいで、本当にここが厨房のように思えてくる。

「新米の癖に偉そうに。あんたもさっさと手を貸しな!」

「はーい」

 ベルネの呼びかけに間延びした声で答えるドローナからは緊張感というものがまるでない。けどそれでいいとカルミアは思う。それが彼女らしいと、いつものように安心して任せることが出来た。

「早く行きな! たく、これだから小娘は!」

 もちろんベルネの激励も変わらない。こんな物騒なことは早く終えて、いつもの仕事に戻りたいとカルミアは思った。