「言っておくけど。私、興味の無いことは憶えないから」

 語ることは許すが相手をするとは限らない。そっけない態度も相まって、言葉選びは慎重に進めなければならないと緊張を伴った。

「お時間をいただき恐縮です。実技担当のドローナ先生。私は学食で働くカルミアと申します」

 実技担当の教師ドローナ改め、黒幕のドローナである。その正体はベルネと同じアレクシーネ時代の精霊だ。

(ベルネさんが学食に執着しているのなら、ドローナはアレクシーネ様に執着している。ドローナの目的はアレクシーネの復活。けど、アレクシーネ様はもういないのよ。復活なんて無理な話だった)

 しかしドローナは生まれ変わりである主人公を見つけてしまう。主人公をアレクシーネの器としてよみがえらせようと、優れた魔女に育てるためにいくつもの試練を与えた。
 それこそがこのゲームの真相であり、すべての事件はドローナが裏で糸を引いている。

(ドローナは次の入学式で主人公と出会うから、このドローナはまだ事件を起こしていないのよね。未来の罪で非難することは出来ないから、厳重に見張る必要があると思っていたけど……)

「その学食の子が私に何か?」

「一緒に学食で働きませんか!?」

「はあ!?」

 ここでようやくドローナの人間らしい反応が見られた。それほど信じられない提案だったのだろう。

「お願いします。ドローナ先生くらいしか頼める人がいないんです!」

「どこをどうしたら私に頼ろうって発想になるのよ! 私たち初対面よね!?」

「初めましてと言った通りです」

 カルミアにとってはゲームでお馴染みの人物ではあるが、向こうは学食で働くカルミアの存在など知るはずもないだろう。

「だいたい私は教師! 先生! 授業があるの!」

 概ね予想通りの反応である。しかしカルミアは諦めなかった。
 現状、リシャールからの依頼で一番怪しいのは黒幕のドローナである。

(危険人物なら目の届く範囲にいてもらえばいいのよね。学食で働いてもらえば人手不足も解消。仕事にも余裕が出来て私の密偵生活も捗る。そしてリシャールさんには真面目に仕事をしていますと胸を張って会うことが出来る。完璧な作戦だわ!)

 カルミアは自分自信を褒めたくなった。もちろんドローナを仲間に引き込めればの話ではあるが。