冬と恒温

「はあ…」

隣の部屋の扉が閉まる音を聞き、帰宅後から無意識に張り詰めていた気をようやく緩めた。
もともと人と長時間過ごすのが苦手だったため、見知らぬ人間と過ごす1時間は5時間の肉体労働よりも疲れたように感じた。


食器を洗った手をタオルで拭いて、本棚の前に立った。
一冊の小説に手を伸ばし、膨らんだページを開いた。

「よかった、ある」

通帳は無事だ。他の物も荒らされた形跡はなく、下着なども盗まれていない。
大学生の一人暮らししている身では金目のものなどないに等しい上、元々持ち物が少ない林檎は特に変わった様子のない部屋を見渡して安堵した。
 
玄関の鍵を閉めたことを確認して1日を終了させた。