「いや、私好きだなんて一言も……」
「えー? 違うの? 羽音から毎日のように黒澤くんの名前が出てきてたから……」
「あああああ――っ!! もうそれ以上言わなくていいから! 顔洗ってくる!」
お母さんの話を遮ると、洗面所に駆け込んで顔を洗う。
はぁ……全く、朝からロクなことない。
「はぁ……」
朝から大きいため息をつき、リビングに戻るとなにやらお母さんと黒澤くんが話している。
「――でね、羽音ったら黒澤くんが転校してからかなり落ち込んで……」
「……ちょ、お母さん!」
お母さんってば、余計なこと話すんだから……全く。
「へぇ~……そうなんですか。色々と聞かせていただいて、ありがとうございます」
ニコニコとお母さんの話を満足そうに聞く黒澤くん。
やばい、絶対にあとでなにか言われる。
「ほら羽音、さっさと朝ごはん食べなさいよ?」
「……いただきます」
食卓について、お母さんが準備してくれたトーストを頬張る。
「でもまさか、黒澤くんと羽音がまた高校で再会してさらに恋人同士になるなんてね」
お母さんから発された“恋人同士”という言葉に思わず飲んでいたコーヒーをブッと吹き出しそうになる。
「中学生のときの恋がようやく実ってよかったわね、羽音」
嬉しそうに私を見つめるお母さんに何も言えなくなる。



