こんなに簡単にキスされちゃうなんて、思ってもいなかった。
「じゃ、俺、下で待ってるから」
そう言って私の部屋を出ていった。
私はさっさと制服に着替えて髪をブラシでとくと、階段を下りた。
「ちょっと、お母さん!」
とりあえず一言お母さんに言わないと気が済まない!
と、1階のリビングに入ると黒澤くんが優雅にコーヒーを飲んでいた。
「なにして……」
「あら、羽音おはよう」
平然と挨拶をしてくるお母さん。
「羽音、黒澤昴くんって羽音が中学生のとき好きだったあの、黒澤昴くんでしょ? なんで高校が一緒になったって話してくれなかったの?」
中学生の頃、お母さんにはよく黒澤くんのことを話していた。
お母さん自身は黒澤くんのこと、参観日のときぐらいしか見たことないけどね。
黒澤くんを好きだったことは一言も言ってなかったし、裏切られたことも話してない。
転校してしまったことだけは知ってるけど。