『わぁ、もう桜も散っていく一方だね』
『そうだな』
黒澤くんと仲良くなって間もない頃、2人で帰るときに桜を見た。
『でも、私、桜が散っていくときが一番好き』
『俺も。花が散るときが好き、なんてなんかヘンな感じだけど』
『……キレイ』
そのとき見た桜は今までで一番キレイに見えた。
たしか、そのとき桜の木を見つめる黒澤くんに見惚れてしまったんだっけ。
『ん?どうかしたか?』
『あ……いや、な、なんでもないっ』
恥ずかしさのあまり、慌てて目をそらすと黒澤くんはフッと笑って、
『来年も見ような』
そう、言ったんだ。
まぁ、そんな約束も叶わないまま、黒澤くんは転校してしまったけど。
あの頃の私はただ純粋に黒澤くんが大好きで、黒澤くんを信じてた。
今思うと黒歴史だ。
過去に戻れるのなら、自分にバカだって言ってやりたいもん。
「……ん。おーい、千葉さん?」
「はっ……ご、ごめん」
また自分の世界に入り込んでた。
入学して何回目だ……。
「桜、散ってんなぁ」
自分の肩に舞い落ちた桜の花びらを手に取って黒澤くんが言った。
「そうだね……」
空を見上げると、桜のピンクが青い空に映えて美しかった。
「でも俺、桜は散ってるときが一番好きなんだ」
黒澤くん……今もそこは変わらないんだ。
このやり取りがなんか少し懐かしい。



