でも、名前を聞いたら思い出すかもしれない。
言いたくないけど、早かれ遅かれバレるもんね……。
「千葉、羽音です」
おそるおそる名前を名乗ると、彼はまた爽やかな笑顔を見せた。
「俺は黒澤昴。よろしくね、千葉さん」
……黒澤昴。
懐かしい響き。
忘れられない存在だ。
だって彼は……私の初恋の相手だから。
ダメ、思い出したら頭が痛くなる。
昔のことは忘れよう。
それにしても、私に本当に気づいてないんだ。
そりゃそうだよね、最後に会ったのは中学1年生のときだし、あの頃は髪の毛も後ろで1つにまとめて、メガネもかけてたもん。
高校生からは少しイメチェンしようと、髪の毛もおろして軽く巻いて、コンタクトに変えた。
なるほど、そういうことか。
きっと名前を聞いても思い出さないのは、私の今の容姿と名前が結びつかないか、もう忘れてしまったか……だよね。
はぁ、気付かれなくて本当によかった。
ホッと胸をなでおろす。
「よろしくね」
私は笑顔で返事をした。