「ちが……っくろさ、わく……っ」
怖さと黒澤くんが来てくれた安心感に上手く言葉が出てこない。
「羽音に気安く触んなっつっただろ!」
見たこともない形相で声を荒げて、先輩を私から引き離す。
こんな怒った黒澤くん、初めて見た……。
「そんなに怒らなくてもいいのに。ちょっと味見させてもらおうとしてただけだよ」
「てめー……っ!」
先輩に殴りかかろうとした黒澤くんに、私は咄嗟に抱きついた。
「ダメ……! 黒澤くん……っ」
そんなことしたら、黒澤くんが学校にいられなくなっちゃう。
「羽音、俺、一発殴らないと気が済まないんだけど」
「ダメ……」
私の目からは更に涙がポロポロとこぼれ落ちる。
それを見た黒澤くんは、振り上げていた拳を下げた。
「もし……これからまた羽音に指一本でも触れたら次は許さねーからな」
「わかったわかった。ごめんね? 羽音ちゃん」
「…………」
こんな状況でもニコニコしている先輩が理解できない。
――キーンコーン。
「じゃ、授業はじまるし戻るね」
予鈴が鳴り、先輩は何事もなかったかのように手をヒラヒラさせて図書室を出て行った。



