「もう、可愛い俺じゃないよ」


「……え?」


「羽音に似合う、カッコいい男になるから。だから……俺のこと、好きになってよ」


「……っ」


何を言い出すのかと思えば……。


「ずっと、羽音がまた俺のこと好きになってくれるの待ってるから」


真剣な表情で話す彼は本気なんだと言われなくてもわかる。


だから……そんなこと真剣な顔で言われると、どう答えていいのかわからないんだってば。


ドキドキさせられてばっかり……ほんとに黒澤くんはズルい。


「……って、もうすでに俺のこと好きになった?」


反応に困っているとお茶目な表情に変わって、からかうように言う。


「そ、そんなワケ……」


「ないか」


「っ」


私が答える前に彼が先に言う。


「ごめんね、困らせちゃって。さ、帰ろ」


「う、うん……」


冷たくなった手を彼に引かれ、再び駅へと向かった。


『相合傘って、濡れてる方が惚れてるらしいよ』


ふと、黒澤くんの言葉を思い出して、肩を見る。


あ……黒澤くん、カサを私の方に傾けてるせいでびしょ濡れだ。


濡れてる方が惚れてる……か。


今思えば、あのとき黒澤くんは私のことを好きだと伝えようとしてくれてたのかな?