大地は私の腕を引っ張り、引き寄せた。


 そして

 私は彼の腕の中で
 ぎゅっと強く、抱きしめられた。


 …!!


「どうして泣いてんの?お前」


 大地の体に包まれ、
 体が徐々に温かくなっていく。


「俺にだったら、話せるだろ?」


 雨上がりの森の様な、深くてとてもいい香りがする。

 少しずつ、心臓の音が早くなっていく。


「うん」


 年に一度の夏祭り、彼に会えるのがとても楽しみだった。少しどきどきしながら浴衣を選び、普段通りを装いながら一緒に遊んだ。

「聞かせて、さくら」

 私は、久しぶりに会えた大地の背中を、自分からそっと抱きしめ返した。

「うん」




 社務所の前にあるベンチに腰掛け、私は現状を話し出した。彼は私の隣に座り、黙って話を聞いてくれた。

「『コロナウイルス』っていう伝染病が世界中に広がったのは知ってる?」


「…知らない」

 私は別に、大地がこの事を知らなくても驚かなかった。

 彼は何故か、昔からそうだったから。


「高校の卒業式が、無くなっちゃったの。人が集まったら伝染病が広がっちゃうから」

 また、涙が零れ落ちてしまう。

「仕方ないけど、寂しくて」

 みんな毎日迷いながら、生き抜くために色々と考えている。

「…」

 大地はそっと指で私の涙を拭い、苦笑いしながらこう言った。


「泣きすぎ」