冬の夜の冷たい空気が、頬を貫いた。

「それでは、また」

 3人は、一瞬で我々の目の前から消えてしまった。

 神社の拝殿の前で一瞬起こった、
 とても奇妙な出来事だった。

 だが、あれは夢では無かった。その証拠にさくらは回復し、みるみるうちに元気になっていったから。

 久遠様達がさくらの病を治して下さったのだ。

 さくらはすくすくと元気に成長し、大人になっていった。

 いつしか我々は、あれを夢の出来事だった様に感じながら過ごす時間が増えていた。

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「……そんな事があったの」

 もし私を抱いた父と母が岩時神社に行かなかったら。久遠様と奥様と大地に会わなかったら。彼らと契約していなかったら。

 私はもしかしたら今、生きてこの世にはいなかったのかも知れない。

 この出会いは、私にとって一番の幸運だったんだ。

「俺はその時の記憶は無いけど。父から聞いた」

「お母様はお元気?」

 母が聞くと、大地は頷いた。

「あちらの世界で元気にしています」

 私は卵を溶いた大地の小鉢に、肉と野菜を入れた。

「もう食べていいよ」

「ありがと。いただきます!」

 大地は慣れない様子で箸を使い、少しずつ肉と野菜を口に入れた。

「…美味い」

「でしょ?これ、私の大好物なの」

 食べる姿の彼が幸せそうになり、私は少しほっとした。