「……」

「……結婚?」

 我々は言葉を失った。

「まだ娘は、1歳になる前です。結婚など…」

 娘の結婚など、当時は
 遠い未来の出来事だと思っていた。

「薄緑に輝く瞳は、永遠の愛を誓った証。赤ん坊のうちにこうなるのは、とても珍しい事です」

「…!」

「私の名は久遠といいます。約束していただかなければ、彼女を助ける事は出来ません」

「……そんな!」

「……お願いします、どうか…」

「…なら、約束してくださいますか?」

「息子の望みを、叶えてはくれませんか?」

 奥様は続けて、こう言った。

「この子はどの世界、どの種族にも属せません。自分で選んだ伴侶と共に、未来を作っていくしか無いんです」

「……その男の子は、人間なのですか?」

 久遠様は首を横に振った。

「いいえ。ドラゴンの私と人間の彼女の間に生まれました」

 久遠様は続けた。

「この子は、そのお嬢さんを全力で幸せにします。…それは保証できる」

 私たちは目を見合わせた。

「…どうする?」

「…さくらが、幸せに生きていられるなら。このまま死んでしまうくらいなら…」

 この男の子と婚約させるべきなのだろうか。

 我々は目を見合わせて頷き、決断した。

「約束します」

「どうか娘を、よろしくお願いします」

 我々が頭を下げると、久遠様と奥様は嬉しそうに頷いた。


「契約成立ですね」