私はキョロキョロと
 あちこち見回したけれど、
 誰もいない。


「…誰かいるの?」



「いるよ」


 
 参道の中央付近にある、
 大きな桜の木の方角から
 はっきり返事が返って来た。


「…?」


 よく響く、綺麗な鈴の音の様な
 男の子の声。



「ここだよ!」



 ヒュン!!



 突然、

 桜の木のてっぺんから
 しなやかで美しい男の子の体が、
 私の目の前に降ってきた。


「さくら」


 目が合った。
 彼は笑ってこちらを見ている。


「はい」


 …どうして、私の名前…?

 …あ!


 白い装束だけを身に纏った彼。
 この顔、見覚えがある!

「…大地?」

 懐かしいピンク色の髪。
 力強い存在感。

「久しぶり」

 私を見つめている彼は、
 楽しそうに微笑んでいる。

「大地……本物?」

 信じられない!

「本物。見りゃわかるだろ」

 また、涙が出てきそう。

「会えて嬉しい?さくら」


 まさか今日、姿を現してくれるなんて!


「…嬉しい!」


 昔と全然変わらない。
 大地は不思議な幼なじみ。

「…でもどうして?」

 岩時神社の夏祭りの時にしか現れない。
 だから、年に一度しか会えなかった。

「今は春だよ」

 彼は大きくて澄んだ瞳に、
 威厳のある輝き宿している。


「さくらに会いたくなったから」