2214年×月××日

「どうしましょどうしましょ!!」

母さん…どうしたんだろ…ここの所ずっとなにかに”焦ってる“

「落ち着け!南波!!もうここを後にする!」

父さんも心に余裕がなさそう

伊万里「兄貴……母さんと父さんは何をそんなに恐れてるの?」
伊万里は隣にいる兄東記の方を見上げるように見ては尋ねる

東記「お前は何も知らなくても良いよ」
そう言い伊万里に目隠しをするように手を当てる

伊万里「…………」
(兄貴の手…震えてる……)
自分の目を覆うように当てられた手からその震えが伝わってくる

東記「伊万里はああなっちゃ駄目だぞ」

伊万里「……うん」

















その一週間後

父さんと母さんは死んだ

理由は吸血鬼化の薬物を作った挙句逃亡したからだ

そう…政府の人から伝えられた













一年後

東記「…………伊万里……ごめんな」
眠っている伊万里の額に触れ何やら呪文のようなものを唱え始める
(お前を……”一人“にすることになってしまって……)



















コンコン

伊万里「兄貴〜…いる?」
伊万里は東記の部屋のドアをノックする
だが東記からの応答は全くない
「兄貴?」
ドアをゆっくりと開けると自分に背を向けた東記の姿があった

東記「来るな……出てけ」
低い声で部屋に入ってきた伊万里に見向きもせずに言う
そんな東記の気配はいつもと違い荒く伊万里を鋭い刃物で突き刺すような禍々しい気配に包まれていて

伊万里「あに……き……どうしたの?……」
既にそんな気配に圧倒され伊万里の身体は震え
(やだ……誰この人……怖い………いつもと違う………)
恐怖に飲み込まれそうになっていた

東記 東記は伊万里の方へと振り返るその時伊万里が目にしたものは吸血鬼へと変貌しかけている兄の姿だった

伊万里「兄貴…………」

東記「おい…何つったってやがる……俺から離れろ…伊万里」
息を荒くしその吸血鬼の本能である血を飲みたくてたまらないのを何とか唇を噛み耐え
(ごめんな…うまそう……苦しい………飲みたい…血が欲しい……………逃げろ)
大切な自分にとって唯一の救いであった伊万里を襲いたくはないだがそれもまた時間の問題だった

伊万里「い…いや…嫌だ!!兄貴も!兄貴も一緒に!!今ならまだ病院に行けば間に合うかもだから…」
そんな甘い考えを持つ伊万里を今納得させるには東記は自分が鬼になるしかないと感じ

東記「馬鹿なことを言うな!出てけ!!もうお前なんか…お前なんか……嫌いなんだよ!顔も見たくない!!良いから出てけよ!!」
怒鳴り声を上げ本当は言いたくもない言葉を並べる

伊万里 それに相当傷ついたのか目には涙を浮かべて
「何…それ……兄貴のこと心配だから俺言ってあげてるのに…!もう知らない!!」
そこまで言うと頬に涙が伝いこの部屋から…家から出て行く

東記 (あぁ…俺も…お前も…本当……馬鹿だよな…………)















あぁ…どうしよ……出てきちゃった

兄貴苦しんでたのに…辛そうにしてたのに……

あんな言葉全部”嘘“だって分かってたのに……

伊万里「俺最低だな……」
家からだいぶ離れた所にある公園まで来るとそこにあるブランコに腰を下ろす
「これからどうしよ……」

俺にはもう頼れる親はいない

兄貴は吸血鬼に……

そもそもなんでこうなっちゃったんだろ

あの薬がなければ……

父さんと母さんが政府の人じゃなかったら……

そしたら殺されることも

兄貴が吸血鬼になることも

この世界が……

伊万里「汚れることも……なかったのに」
伊万里は顔を上げ空を見上げる
先程まで頬を伝っていた涙は気がつけば止まっていて
一人寂しく暗い夜が始まろうとしていた