洋一は、透が思った通りダニによる感染症にかかっていた。それは、ダニ媒介性脳炎という病気だ。

ダニ媒介性脳炎は、中央ヨーロッパからロシア、中国北部にもある感染症だ。発熱や関節痛などインフルエンザに似た症状が現れる。しかし、髄膜脳炎を生じた場合、痙攣や知覚異常が起きて死亡する場合もある。

「浜田たちがこの病気を見つけてくれなかったら、俺はここにいなかった。本当にありがとう!」

そう言って笑う洋一に、透は「いや、元気になってよかったよ」と言った。洋一の笑顔を見るのは久しぶりだ。

「俺、妹の分も頑張って生きる。もう前を向いて歩いて行くよ」

「そっか。何かあったらまた連絡してくれ」

透に手を振り、洋一は帰っていく。「強い友人だな」と玲奈が呟いたのを、透は聞き逃さなかった。

どういう意味だよ、と言うつもりだった透だったが、振り返って玲奈の瞳を見た時に何も言えなくなる。

その目には、涙が滲んでいた。