綾瀬くんは私が大嫌い


久しぶりに二人で下校できて、こっそり低めのスキップを披露してしまう。せっかくなのだ、今日は二人で何か食べに行こう。とさりげなくデートのお誘いをしてみるが、無言。
デートのお誘い、玉砕。粉砕。破砕。

じゃあせめて、と思い制服のジャケットのポッケから端末を取り出して、連絡ツールのアプリを開き、勢いよくそれを彼に見せる。


「お、お願いします、ブロックを解いてはくれませんか?」


涙ながらに懇願してみるが、綾瀬くんは横目に見るなり、短く「無理」という。


「な、なんでぇ!?別にいいじゃん連絡くらい!」


「本当に無理」



「お願いしますお願いしますお願いします、なんでもします。お願いします。」


駅までの住宅街に響く私の必死の懇願。


「じゃあもう話しかけないでくれる?」


なんでもしますと安易に言ったが最後、思わず白目を向いてしまいそうになるお願いをされた。それだけは無理だ。

ブロックをされたのは最近ではない。私が彼を好きになってすぐだった。なかなか教えてくれないそれに痺れを切らした1年生の時。綾瀬くんが寝ている隙に、パスコードのかけられていないスマートフォンを操作し、巧みに私と連絡交換させたのだ。

気づかれた日、もうスタンプはプレゼントできなくなっていたし、パスコードも厳重に掛けられていた。無念。

私が一人で話したり玉砕して白目を向いていたりするともう駅前に着く。
18時になり、少し人が多くなっていた。改札に定期をかざし、別の改札を通っていた綾瀬くんに置いていかれまいと後をついてホームにおりる。


ふと自動販売機が目に入った。


「あ。綾瀬くん!なんか飲む?私小銭侍だから使う所探してるの!」

小銭侍って何だろうね、と一人で笑いながら鞄に入っている財布を取り出す。
綾瀬くんは横に並ぶので、きっと飲み物を選んでいるのだろうと思った。

財布から細かくなった小銭を数え集めていると、高い機械音が聞こえる。疑問に思い、機械音がした自動販売機をチラリと見ると、綾瀬くんが私なんか待たず定期であるICカードをかざしていた。

「えっ?!ちょっと!小銭侍なのに!私が出すのに!」


私の言葉は全く聞こえていないようで、躊躇わずボタンを押し、すぐに落下してくるペットボトル。

「…そんなに私に奢られたくないの?」

綾瀬くんが屈んで取り出したのは炭酸水。
あれ、奇遇だなぁと綾瀬くんを眺める。私も炭酸水にしようと思っていたのだ。

すると

「はい」

片手でそれを渡してくる。

「へぁ?」

何が起きているか脳が処理できなくて間抜けな声が出てしまった。

炭酸水を持たない片手ではもう一度ICカードをかざし、次はお茶を買っている。
差し出した炭酸水が受け取られないのを不思議に思ったのか「…あれ、ハマってたんじゃなかった?」と私に問うてきた。

「っえ?!?」

未だそれを受け取れず。

「は?なに?」


「まさか私に?!買ってくれたの?!?」

喜びの表情を向けると顔を顰める。正反対の感情を持つ二人。

「…は?……だる」

ため息を吐き私にペットボトルを押し付けてくる。



やっと受け取れた炭酸水が輝かしい。いや、神々しい。初めての綾瀬くんからのプレゼントだ!!!!!!!

気分的には3メートルはジャンプして喜んだ。


「うわーー!ありがとう!!!」


周囲の目を集めるけれどそんなの関係ないのだ。