綾瀬くんは私が大嫌い

 






「綾瀬って人、喧嘩ばっかしてるらしいよな」



「ああ、あれほんとなんだ。綾瀬先輩が暴走族って話。」



「いや、だってしょっちゅう怪我してるだろ、みんな分かってるよあの人がやばい奴らと遊んでるって。」


「今どき暴走族とか、ださくね」



___あ、まただ。


春休みの課題に1ミリも黒鉛を乗せずに新学期を迎えた私は、案の定、放課後にそれと向き合わさせられる羽目になり、終わるまでの日々は居残りとになった。

そんな取り残された放課後、帰ろうと階段を下りていると、しっかりと上靴の色を確認出来なかったけれど、一年生だろうか。

綾瀬君の噂話をしていた男の子達とすれ違った。
そんなの嘘に決まっているのに。

足が止まり、
口が自然に開く。


「ねぇねぇ、君たち。」


二人組の男の子に思わず声をかけると不思議そうに振り返った。


「、はい?」


「綾瀬君、暴走族とか絶対無理だよ。だって腕相撲、超~弱いんだよ?」


ふたりはぽかんと口を開けて、顔を見合わせる。


「綾瀬君はね、ああみえてすっごくドジっ子なの。何にもないところですーぐ転ぶし、壁にすーぐぶつかっちゃうの。わかった?」



「...、え、あ、はい。」



「そういう事だからね。ばいばい。」


そう言ってくるりと前を向き直し、階段を下り始める。

綾瀬君はあまりしゃべらないから変な噂をたてられるのだ。否定も肯定もしない。
ましてや友達も少ないから自分が否定しなかったら否定してくれる人間がいないのだ。

だからここはカッコつけて未来の彼女の私が言わないと。


「かっこいいじゃん」


玄関にたどり着く前、後ろから聞こえた。

振り返るとやけにでかい男。


「あ、見てたの?春樹。」


「おぉ、たまたまな。綾瀬の事になるとヒーローだな。」


「は?ヒロインにしてよ!」