綾瀬くんは私が大嫌い





綾瀬くんは私が嫌いらしい。でもそんな彼が私は大好きだし、全てが愛おしいと思う。
けれどそもそも彼は、私を除き 、春樹以外にはあまり関わっていない。彼の極端に淡白な会話や態度は人を寄せ付けないのだ。

もし美醜価値観というものがそれぞれあり、それの平均があるとするならば、正直な所、綾瀬くんの顔は整っているし、こっそり挙手を願えば隠れファンは沢山いるだろうけれど。
なにしろ私が悪目立ちしているのだ。私のように嫌われたくない心の弱い、もとい愛の足りない女たちと言う事だ。


「亜子ってさぁ。」


昼休みの教室で、お弁当を開きながら、友達の宮崎夏帆(ミヤザキ カホ) が私の名前を呼ぶ。

「シャクシャク……ん?シャク」

コンビニで買ったサラダを友達も待たずに、水々しく新鮮な音を立てて食べながら返事をした。

夏帆は中に幸せが詰まったプラスチックの小さい箱をあける。あ、今日はハンバーグらしい。デミグラスソースが光を反射してとても美味しそうだ。


「亜子って綾瀬の事めちゃくちゃ好きだけど、付き合いたいとか言わないよね。もうあきらめてんの?逆に。逆にだからそんな吹っ切れてんの?」



「ごほっ」



むせるが、鼻からキャベツを出さまいと 必死に抑える。


「はぁ?!諦めて吹っ切れてるわけじゃないし!!」


夏帆は何とも言えぬ顔で箸を取り出し食べ始める。


「私はいつか必ず綾瀬くんが振り向いてくれるって信じてるの!今の目標はそれだからそのあとのことはそのあと考えるの!」



「そうなのね。頑張ってね。綾瀬可哀想だけど。」



綾瀬くんの話題についてはかなり冷たい夏帆だけれど、ただでさえ浮いている綾瀬くんに付き纏う私はもっとぷっかぷか浮いているので、そんな私と一緒にいてくれる夏帆には感謝しているし、綾瀬くんの次くらいに好きだ。


夏帆とは中学が同じで、なんだかんだ4年の中になる。そんな彼女が教室の後ろのドアの方を向いて「あ、帰ってきたよ綾瀬」と教えてくれる。


食堂から帰ってきた綾瀬くんが自分の席につくなり私もその横の席に座る。
まるで私の存在が見えてないかのように無反応な綾瀬くんに、お菓子を差し出した。


「おかえり綾瀬くん!これ一緒に食べよ!」


静かな教室に私の声が響いたが、彼には響いていないようだった。
受け取られることのないお菓子を笑顔で食べていると綾瀬くんは机に突っ伏した。


「机になりたい」