綾瀬くんは私が大嫌い





耳に少しかかるくらいで、襟足が愛おしい長さの黒髪を、艶やかになびかせて私をうっとりとさせる。
前に何度も「シャンプーとトリートメントはなにを使っているのか?」と聞いているのだが、残念ながら一度も教えていただいたことはない。

香りからして市販のものではないかもしれない…。


「あれ、綾瀬、ほっぺ。どうした?」


綾瀬くんを挟んで歩いていた私達。自分の左に歩く彼の頬を覗くようにして指を指す。
春樹が示す、彼の左頬を回り込んで見て見ると、小さいが切り傷ができていた。

「え!傷!どうしよう!どうしよう!綾瀬くんの綺麗な顔に傷跡残っちゃったらどうしよう!」

足を止めて、その傷に触れるか触れないかと言う所まで近づけた手を、かなり強めに振り払われた。気にせず「病院行こう」と言うが目も合わせてくれない。

けれども。


「なんかあったの?」

「いや、多分寝てる時自分で引っ掻いた。」


春樹にはしっかり返答。そんなところも大好きだ。

「消毒とかしたほうがいいのかな?!でも…心配だけど傷のある綾瀬くんもすき…」

大きい掌で頭を鷲掴みにされて思わず断末魔をあげそうになる。
大きい掌の持ち主は呆れ顔で「綾瀬がしねって顔してるから、もううるさくしないの。」と、私が騒ぐのを制す。


それからは綾瀬くんへの気持ちは抑え気味にして、三人で学校へと向かった。