「あ、春樹」


ドアの音はどうやら本物だったようだ。
春樹が帰ってきた。


「亜子もう着いてたんだ、すまんすまん。途中で拾ったもんがあってさ。」


ニコニコしながら帰ってきた彼は、後ろにいる人物を自分の前に出した。



「バイト帰りの綾瀬捕まえました!」


前に出された綾瀬くんと目が合う。

見たことない私服を着ていたので最近購入したものだろうか。ロゴの入ったぶかぶかのパーカーがよく似合っていて可愛い。


「綾瀬くん!今日早番だったの??」


綾瀬くんの右瞼がピクリと嫌そうに動いた。
あぁ、まだ怒ってるんだ。
その空気を察したのか春樹が持っていたものを持ち上げて私に見せた。


「この子のバイト先でお菓子買ってきたから食べながら映画見よ」


ビニール袋にお菓子がパンパンに詰められていた。この子、綾瀬くんがレジをしたのだろうか。


「いいね~ッ。食べよ食べよ。映画何観る?」

そのビニール袋を奪って何を食べようか選んでいると夏樹ちゃんが私の顔を覗いて言う。


「あれ、筋トレしにきたんじゃないの?亜子」


「ん、映画観たらするよ」


別にここにくる理由なんて何でもいいのだから。