「あ、ああああああああああ綾瀬くん」


急いで彼に駆け寄ると当の本人はトイレ行ってきただけですけど。みたいな顔をしている。当たり前のように席に着こうとしているので慌てて彼を連れて教室を出た。


「綾瀬くん、水瀬桜子に、こく、告白されたの?」


下を向いて閉じかけていた瞼が開いて、上に向いた瞳が私をとらえる。そして唇が小さく動いた。


「された」


珍しく私の顔をしっかり見て言葉を発した。


「水瀬、なんて?」


「水瀬と俺、小学生の時同じ学校だった」


「それって、その時から今までずっと綾瀬くんのこと好きだったって事?」


「そうらしい」


じゃあ、あの可愛い可愛い高嶺の花は、今まで綾瀬くんだけを想って沢山の男たちを落胆させてきたのか。


「そ、そっか……そうかそうか。」


思わずおでこからまぶたにかけて手で覆った。何度か左右に擦った後、綾瀬くんを見上げるとまだ私を見つめていた。

そして気がついたことがあった。

「あ、寝癖」


私から見て右側、綾瀬くんの耳元の髪の毛が重力を知らない形をしていた。

可愛い寝癖に心を和ませそっと触る。


「かわいいね、綾瀬くん。こっち側を下にして寝てたの?」


柔らかい髪がてのひらをかすめていく。