束になり、長く、黒く、艶のあるまつ毛が瞬きで揺れるのを眺め、綺麗な肌につけられたまだ治り切らない傷跡達を見る。
「私も春樹くらいガタイが良かったら、綾瀬くんのこと守れるのに」
再び手を動かす。独り言のつもりでポツリとこぼすと春樹の笑う声が頭上から聞こえ、髪が揺れた。
「お前のガリガリの体でも綾瀬には伝わってるよ!な!綾瀬」
「ガリガリって、言い方もうちょっとあるだろ」
夏樹ちゃんがツッコミを入れる傍、
え?伝わってるの?
期待に満ちた瞳を向けると、当の本人は嫌そうに春樹を睨んでいた。え、全然伝わってなさそう。
一人で喜怒哀楽の「喜」と「哀」のジェットコースターに乗車していると、横の兄弟は会話の続きをしていたようで、
「ほら、肩とかこんな薄いんだよ。同じ人間とは思えない。」
勝手に春樹が私の肩を優しく掴み、自分と比べる。
「えぇ、じゃあ筋トレでも始めるかな」
「あー、じゃあ俺んちくれば。筋トレ器具あるよ。」
野口兄弟の家は徒歩10分圏内なので、悪くはない提案だった。
