綾瀬くんは私が大嫌い


職員室がある校舎を歩いていると「職員室」と書いてあるプレートの真下、胸から笛を垂らしジャージ姿の松村がガラリとドアの音を鳴らし出てくる。

「あ、先生。」

軽く手をあげて存在をアピールするとこちらに気づきなぜか険しい顔をする。

「…おい、A組はシャトルランのはずだろ」

授業前、誰もいない廊下に嫌に低い声が響く。


「あ、すみません、ちょっと調子悪くて」


「あぁ?!またそれかお前」


「はい、なのでちょっと体育お休みしたくて」


「シャトルランやりたくねぇんだろ?あ?」



また、と言うのは確かに前もこうやって授業を休んだことはあるのだが。そんなに怒ることか。



「すみません」



「すみませんってなぁ、俺の授業が嫌なら帰れ」


「いや、あの」



あ、これ長々怒られるやつだ。と悟りを開こうとした時だった。松村の大きな声を聞いて何事かとまた職員室から出てきた教師が、ひょっこりこちらを覗いた。


そして目が合う。




「あっ。ごめんなさい松村先生」



クリンとした髪の毛と垂れ目で優しい雰囲気の彼が、右手で謝罪のポーズをしながら私達の間に割って入ってきた。

「野口先生」


松村が彼の名を呼ぶ。


「あ、あの中畑ちょっと朝から具合悪いみたいなので、はい。あの、休ませてあげてください。保健室に連れてくんでね。すみません。」


彼が私の前に庇う様に立ち、チラチラとこちらを見ながらそう言うと、松村は「はぁ、そうですか」と一言置いて授業へ向かった。