普段、そこまで心配して引き止めるほど俺はできた人間じゃない。 ただ自分でも頭より先に、ほぼ無意識に口が動いていた。 きょとん、とした顔をして自分の手に1度視線を向けたあと、もう1度俺の方を見上げた彼女。 「あのお名前は?」 俺が指摘した手の震えは特に何も言わずに名前を聞いてきた。 俺が自分の名前を告げるともう1度お礼を言って立ち去ろうとした凛愛を再度引き止める。 「人に聞いておいて自分は名乗らないでいくつもりか?」