私がお兄ちゃんの腕を引っ張って逃げたあの日から、周晴さんと会うことはなくなった。

仕事もどうやら終わったようだし、もうこれで2度と彼と顔をあわせることはないだろう。

「本当に結婚してることを信じちゃったのかも知れないな…」

そうさせるように仕向けたのは自分のくせに…と、私は自嘲気味に呟いた。

私は隣でよく眠っている大晴に視線を向けた。

「よく似てるな、周晴さんに」

母親譲りの焦げ茶色でゆるくウェーブがかかっている私の髪とは違う真っ直ぐな黒い髪に手を伸ばすと、そっとなでた。

「大晴は、パパがいなくて寂しいって思ったことある?」

いつだったかは忘れたけれど、1度だけ大晴にそのことを聞いたことがあった。