その会社の名前を聞いた私の胸がチクリと痛んだ。

「『オトクニ広告株式会社』、ですね…。

はい、わかりました…」

私は、ちゃんと返事をすることができていただろうか?

「お願いしますね」

高崎さんは私が返事をしたことを確認すると、デスクから離れた。

「『オトクニ広告株式会社』か…」

その会社は、私がここで契約社員として働く6年前――大晴が生まれる前――に働いていた会社だ。

今朝見た夢が、頭の中でよみがえりそうになった。

「落ち着いて、落ち着いて…」

自分に言い聞かせるように呟いて、気持ちを落ち着かせた。

私は何も言わずに会社を辞めて、彼の前を去ったのだ。

当然のことながら、彼は何も知らないだろう。

自分に、息子がいることを。