異変に気付いたであろう三井先生が私のそばにやってきた。顔を上げずとも、すぐそばにいることは気配でわかる。
「な、なんでも……」
ありません。そう言おうとして言葉に詰まる。
もし、もしもお腹の赤ちゃんに異変があるのだとしたら、一刻も早く病院に行った方がいいに決まっている。
こんな量の出血は尋常ではない。きっとよくないことがあったのだ。ここで私が強がって赤ちゃんに何かあったとしたら、後悔してもしきれない。
「そ、それが出血してしまって。お腹も張って痛むんです」
「それは大変だ。すぐ病院まで連れていく」
「いえ、あの、タクシーで」
「杏奈とお腹の子に何かあったらどうするんだ」
強くそう言われてしまい何も言い返せなくなった。正直今は一刻も早く病院に行きたかったので三井先生からの申し出はありがたい。
ホッとしたら足から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになった。
「っと、大丈夫か?」
すかさず三井先生が体を支えてくれた。
「フラフラしてしまって、すみません」
「きっと貧血になっているんだろう。俺にしっかりつかまるんだ」
耳馴染みのいい低い声が耳元でしたかと思うと、体がふわりと持ち上がった。
「あ、あの」
「いいから俺に身を委ねていろ」
ドキン。
やだ、こんな状況で私ったら。



