「どうして黙っていなくなったりしたんだ」
「どうしてって、そんなの……決まってるじゃないですか」
「なんだ? はっきり言ってみろ」
怒っている?
逃げたりしたもの、当然よね。
忙しい合間を縫ってここへきたのかもしれない。
「俺がお腹の子の父親だからか?」
ドキンと、ひときわ大きく鼓動が鳴った。
「だから俺の前から姿を消したのか?」
「違い、ます」
そう声にするのが精いっぱいで、それ以上どう言えばいいのかもわからず体が震えた。こんな態度では強がっているのがバレてしまう。
ポコッポコッ。しっかりしなきゃだめだよって、そう言ってくれているのかな。お腹を撫でるともう一度強く蹴り返してきた。
「この子と三井先生は何も関係がありませんので。それでは失礼します」
これでいい。これでよかったんだわ。もうこれ以上気持ちを揺さぶられたくはない。
「何も関係がないって、納得できるはずないだろう?」
真実を打ち明ける方が困るのでは?
三井先生が何を考えているのかまったくわからず、困惑してしまう。いったい何をどう言えば納得してもらえるのだろう。
「急いでますので失礼します」
顔を見ず、目さえ合わさず、私は軽く会釈してその場を離れる。
安成さんは遠くから何も言わずに様子をうかがっていたようだ。



