「え?」
いつもは交わしてくれる安成さんが、私の顔を覗き込む。動揺が伝わったのだろう、疑いの眼差しを向けられた。
「強くなるにはすべてを一人で抱え込むんじゃなくて、時には人を頼ることも大切ですよ」
人を頼ることも大切。そんなこと考えもしなかった。
「って、人からの受け売りなんですけどね」
クシャッと表情を崩す安成さんの瞳に、悲しみの色が宿った気がした。お付き合いしていたという女性からの受け売りだろうか。
だからといってそんなにすぐ考えは変わらないのだが、安成さんの言葉に心が軽くなったのは事実。
そうこうしているうちに車から三井先生が降りてきた。
どうしよう、バスはまだだし、今度こそ逃げ切れない。
「ごめんなさい、失礼します」
私は必死でその場を離れる。安成さんはいきなりのことに困惑していたが、説明している暇はなかった。
「杏奈、待ってくれ」
すぐに追いつかれるのはわかっていた。そして逃げられないということも。
背後から腕をつかまれ動きが止まる。手から熱が伝わって、鼓動が大きく脈打った。
「どうしてそう頑なに俺を拒む?」
「そ、それは」
「思っていることがあるなら、はっきり言ってくれ」
「ありません、何も」
あっても口にできるはずがないでしょう。



