秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています


一時間に一本しかない電車だが運良くすぐにやってきた。五駅先の主要駅で乗り換えを済ませ、空いている座席へ。

「芹沢さん?」

「あ、安成さん」

「偶然ですね、こんなところでお会いするなんて」

向かいの座席に座っていた安成さんは、爽やかな笑みを浮かべながら私の隣へ移動した。心がざわついているこんな時は、安成さんの凪のような穏やかさに救われる。

「今日は車ではないんですね」

「ええ、実はパンクしてしまって。今日はこれから父のお見舞いなんですよ」

安成さんのお父さんは数日前に体調を崩し、肺炎で総合病院に入院しているようだ。

行き先が同じだとわかり、電車を降りてからも何気なく一緒に歩いてバス停へと向かう。

「あ」

駅のロータリーに停まる黒い高級車。落ち着いたはずの胸のざわめきが一瞬にして蘇った。

どうしよう、次にまた話をしようと迫られたら、私は振り解けるのだろうか、彼の手を。

きちんと話をしようと思ったはずの自分は、三井先生の姿を見てあっという間に消え去った。

やはり面と向かって話をするのにはとても勇気がいる。そんな度胸は私には……。

ポコッとひときわ大きな胎動があった。

もしかしてこの子はこんなに弱いママを応援してくれているのだろうか。

「どうかしたんですか?」

「いえ、あの、なんでもありません」

「本当に?」