秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています


「どうしてだ。大事な話があるだろう」

「ないです、何も」

私を抱きしめている腕から逃れバスへと乗り込む。

「杏奈!」

「もうこないでください」

「そんなんで納得できるわけがないだろう? ちゃんと話をさせてくれ」

「……」

切迫した声を背中で聞きながらバスの運転手に頭を下げる。

「すみません、行ってください」

運転手には「いいんですか?」と聞かれたが、「お願いします」と伝え座席に腰掛けた。

バスに乗客がいなかったのがせめてもの救いだ。

こんな騒動があったとなれば小さな町だもの、噂になるに違いない。

バスが発車したところで、私はようやく安堵の息を吐き出した。

でもこれで納得したとは思えない。もしまた私の目の前に現れたら、どう突き返せばいいというの。

一度きちんと話すべきなのだろうか。

そこではっきり無関係だと伝えた方が、三井先生も安心するのでは?

先ほどは急な出来事に驚き、とっさの判断で逃げてしまったけれど、冷静さを取り戻してくると自分の行動を後悔した。

バスの目的地は隣町の小さな駅で、そこから電車に乗ってさらに主要駅で乗り換え、駅からはまたバスに乗ることで総合病院にたどり着く。