「芹沢さん、これまちがってるよ」

「え、あ……!」

内服薬のセットをまちがえるという、かなり初歩的なミスをしてしまい激しく落ち込んだ。

「本当にすみませんっ」

「珍しいね、ミスなんて。体調でも悪い?」

以前整形外科病棟にいた時にも一緒だった三期上の仁科(にしな)さんが、心配そうに私の顔を覗き込む。

美人というより可愛らしい顔立ちで、いつでも明るく笑顔が素敵な憧れの先輩だ。

「いえ、大丈夫です」

「無理しないでねって言っても、芹沢さんは体調が悪くても無理しちゃうタイプだもんね。本当に辛かったらちゃんと言ってね」

「ありがとう、ございます」

仁科さんの優しさに甘えてはいけない。悪いのは集中できていない私だ。

ミスは許されない命の現場で、余計なことを考え悩んでいる暇はない。

気を引き締め、私は仕事に没頭した。

休みなく病棟内を走り回り、やっと一息つけるようになった時には午前〇時を回っていた。

「芹沢さん、先に仮眠いっちゃって」

「はい」

夜勤のリーダーに指示され、棟内にある仮眠室へと向かう。

照明が消えた薄暗い廊下は昼間とはちがってすごく不気味だ。

だからいつもよりも早歩きになってしまう。