「緊張しているのか」

私よりもひと回り大きい彼の手が私の頬に触れた。すぐそばに感じる体温に、だんだんと身体が火照っていく。

そんな三井先生から距離を取ろうと思わず後ろへ退く。

「杏奈」

どこまでも甘く、それでいて獲物を捕らえたら離さないという強い意思を持ったその声は、私の心をいとも簡単にかき乱す。

「な、名前を呼ばないでください」

「それは聞けないお願いだな、俺が呼びたいんだよ」

「……っ」

流されてはだめだと頭ではわかっている。でも理性には敵わない。私の本心は名前を呼ばれて嬉しいと言っている。

今目の前にいる三井先生に触れたくて仕方がない。

「可愛いな、杏奈は」

「か、からかうのは、やめて、ください……っ」

なんとか絞り出した声は、かすれていて説得力がまるでない。これでは動揺しているのが丸わかり。

それでもこの状況をなんとも思っていないであろう三井先生の前では、無理をしてでも余裕のある大人の女性を演じたかった。

「からかってなんかいない」

三井先生は片側の口角だけを持ち上げて笑うと、私の頬に当てていた指先を顎に移動させた。

まるで吸い込まれるように自然と視線が重なり、私はとうとう身動きができなくなった。