秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています


「興味深い女性に対しては名前を呼びたくなるんだ」

興味深い女性。その後の言葉は置いておくとして。

「変なことを言わないでください」

そうは言うものの、亡き母がつけてくれた名前を褒められて悪い気はしない。

だからといって三井先生に呼ばれる筋合いはないのだけれど、胸にスッと馴染むその声で言われてしまうとどうしてか許せてしまう。

十年前からずっと三井先生は私の心をかき乱す唯一の存在だ。

「このあと時間あるか? 少し付き合ってほしいんだが」

「どこへですか?」

「そうだな、少し飲み直そうか」

「今思いつきましたね?」

「ちょうど飲みたい気分だったんだ」

断ろうと思えばできたはずだ。

だけどそれをしなかったのは、少なからずアルコールが入っていたせいもある。

それ以外に理由なんてない、そう、理由なんて……。

「それじゃあ案内するよ」

三井先生はそっと私の腰に手を添えた。あまりにもスマートなその仕草に、条件反射で距離を取る。

本当に女性の扱いに慣れすぎではないだろうか。

だから恋人になれだなんて、軽々しくそんな言葉が言えるんだ。

じとっと睨むと「堅いなぁ、杏奈は」と、笑顔でそう返された。

先生が軽すぎるんですよ、という言葉はなんとか呑み込み、私たちは夜の街を歩く。

隣を歩く三井先生は院内とは違って、いつもよりも砕けた印象。

背が高く雰囲気もあるので、とても目立っている。