「あの時のことを覚えていたんですか?」

杏奈は大きく目を見開いた。

「当然だ。杏奈が看護師として病院に入職してきた時は驚いたよ」

「そんな、まさか」

それはよっぽど予想外だったらしく、わなわなと唇を震わせた。

杏奈が入職してきた時は、まるで雷に撃たれたように全身に衝撃が走った。しかし患者の家族として病院に通っていた杏奈に、わざわざつらいことを思い出させるのは忍びなく、昔の話などできなかった。

だから俺が忘れているとでも思ったのだろう。

反対に杏奈が俺を覚えていたことに驚いたが、お互いに言い出せなかっただけなのかもしれない。

「初めて会った時から気になっていた」

仕事ばかりしてきた俺にこんな感覚は初めてだった。

今思えば一目惚れというやつだったのかもしれない。

「いや、好きだったんだ」

ストレートに気持ちを表現するたびに、杏奈は頬を真っ赤に染めた。反応が初々しくて、何度でもその顔を見たいと思う。

「嬉しいです。私もですから」

「何がだ?」

「初めて会った高校生の時から、三井先生が気になっていました」

「え?」

そんな、まさか。

それほど昔から?

勤務中は真面目でそんな素振りなど一切なかった。