「どうして、タトゥーのお店がこんなにあるんですか?」

菜乃花が訊ねると、クーガーは菜乃花の腰に腕を回して言う。

「この国では男は大切な人ーーー自分の生涯の相手を見つけた時にはタトゥーを入れることが伝統なんだ。相手をイメージしたものを入れる」

俺はもうすぐ入れられるな、とクーガーは笑った。菜乃花は「でも、私……」とうつむく。まだ出会って数時間なのに、結婚など決められるはずがない。

その時、ふわりと花びらが舞い落ちてきた。白いその花弁に見覚えがある。菜乃花が辺りを見回すと、大きな桜の木を見つけた。ふわりふわりと花びらが舞い、人々が足を止めて桜を見つめている。

「この国にも、桜があるんですね」

菜乃花が美しさに目を細めると、クーガーは「お前たちの世界では桜と言うのか」と微笑む。

菜乃花とクーガーは、桜をしばらく見つめていた。



菜乃花の異世界での生活は、戸惑いながらも続いていった。

豪華な調度品や料理、ドレスには未だになれないものの、クーガーからこの世界の歴史などを教えてもらううちに異世界に来て二ヶ月ほどが経とうとしていた。