観覧車が終わる前、樋口くんは私に聞いてきた。



「朽木さんじゃなくて、なんて呼んでもらいたい?」



本当は呼び捨てが良かったけど、クラスに先約がいるから避けたかった。



「奈和ちゃんでいいよ。私は...」


「奈和ちゃん、春くん、で」


「じゃあ、春くん...。ふふっ。なんかテレる」


「奈和ちゃんが照れてどうするの。呼ばれるのは俺なのに。俺はもう慣れたよ、奈和ちゃん」



不思議な感じだった。


まさか放送部の縁でこうなるとは想像していなかった。


だけど、まあ、いっか。


幸せならそれでいい。


1度間違えた私が掴んだ新たな幸せ。


また新たに始まるんだ。


物語は始まったばかり。


これからどんなことがあるのだろう。


困難よりも楽しいことが多いといいな。



「は、春くん...」


「何?」


「これからもよろしくお願いします」


「うん、よろしくね」