読めないあなたに小説を。




「恵弥く……」


「俺、なんも知らんかった。
 知らんでキツイことも言った。
 お前がこんなでかいこと抱えてるなんて、
 全然知らんかった」


今にも泣き出してしまいそうな
幼い子供の顔をしていた。


恵弥くんの、私を掴む手が優しい。
彼の手があまりにも冷たいから、
興奮していた私の体から熱が溶けていく。


次第に息苦しさが消えていった。
さっきまで息を上手く出来なかったのに、
少しずつ落ち着いた息遣いに変わる。


心臓は凪のように、
静かに規則正しく鳴っていた。


「お前が辛くなんなら、何があったかは聞かん。
 でも、病気のことは知りたいねん。
 軽々しく分かるなんて言いたくねぇ。
 お前の辛さは、正直俺には分からんから。
 でも、それでも少しでも分かろうとしたいねん。
 分かる努力をしたいねん。
 そしたら俺、お前を助けられるか?」


なんで、恵弥くんは、秘密を知っても
こんなに優しい言葉をかけてくれるの?


大抵の人は嘲笑うか、かまってちゃんだとほっておくか、
「分かるよ、辛いね」なんて分かったフリをするのに。


恵弥くんははっきりと「分からない」と言った。
でもそれは全然悲しくない。
だって、「それでも分かろうとしたい」って言ったから。


どうしてこんな私に、「助けられるか?」なんて言うの?
私はこんなにも、面倒くさい女なのに。


「どうして、恵弥くんは私に優しくするの?
 統合失調症は精神病なんだよ。
 面倒くさいよ。恥ずかしい病気だよ」


「なんも恥ずかしいことなんてないわ!
 それはお前が悪いんか?
 もしそう思ってんねやったら違う。
 お前はなんも悪くねぇだろ。
 恥ずかしいと思う必要なんかまったくない」


すっと、心が軽くなるのが分かった。
彼は、私の一番欲しい言葉をくれた。


お前は悪くない。
ただその一言が欲しかった。
そして彼は続けた。





「俺がお前に優しくするんは、お前が好きやからや」












きゅーん、と一つ。